映画鑑賞録。

最近見た映画を忘れないために。

葛城事件。

2016年。

 

評価-6/10。

 

社会派度-☆☆☆☆

胸糞悪さ度-☆☆☆

同情度-☆☆☆

 

 

無差別殺傷事件を起こした次男に対して、死刑判決が出され、死刑反対派である女性が次男と結婚することで、この事件に関わることになる。女性は、次男と会話できる立場になり、また父親とも会話するようになる。なので、観客はこの女性を通して、現在の次男父親、そして父親の環境を知ることになる。

 

合間に、事件を起こすまでの家族の時間が挿入されるので、ちゃんと見ていないと、この場面は、現在なのか過去なのか分からない、ということになりかねない。ややこしいと言えばややこしかった。

 

父親は、「家族を大事にしたい」ナルシストとして描かれる。なので、自分の思い通りに動かないと暴力をふるったり人格攻撃をしたりするし、それに屈服して彼の思い通りに動いたら、その後すぐに笑顔で会話を続けようとする。

 

長男は、父親の思い通りの人間になることを了承して生きていて、子どもの時から成績が良い。そのため、父親に愛されている。

次男は、父親に支配されることに疲れ果てていて、いわゆる「引きこもり状態」になっていて、父親から疎まれている。

母親は、父親からの暴力から逃れられず卑屈になっていて思考能力も低下している。一度、父親から逃げて生活を始めるが、結局連れ戻される。

 

長男はリストラにあうが、それは父親が望む姿ではないと分かっているので、誰にも相談できずに自殺してしまう。

 

その後に、次男が駅で無差別殺傷事件を起こす、という流れ。

 

 

自分の理想の子どもになるように育てようとする女性は「教育ママ」として描かれることが多いけど、それの男性版という感じ。

 

どちらにしても「理想の家族」を欲しがっているけど、家族を「人格をもつ人間」として見ていない。

 

映画では終盤に家に住み始めた頃の「普通の状態」だった様子が回想として描かれるけど、それが悲劇性を高めている。というか、この回想がなければ「この父親、クソ過ぎる」で終わりそう。

 

次男は、家庭の中ではボソボソとしか話せなかったのが、刑務所では感情むき出しで叫ぶようになっている。それだけ、父親の抑圧の大きさが分かる。(ただ、演技的には舞台のようで、映画としてはチョット大げさだなとも思った。もうちょっと言葉が聞き取りやすかったら良かった。)

 

 

父親役の三浦友和さんの演技は、評判通り秀逸だった。ただただ胸くそ悪さを感じてて、「同情できない演技」で映画を支えることができるのは、そこに並外れた演技力があるからだと思った。(観ている時はヤなヤツだなとしか思わせない)

 

母親役の南果歩さんの演技もよかった。夫の身勝手さや暴力に怯えている「弱い妻」というのではなく、夫の狂気が伝染して「壊れた妻」を演じていた。

 

次男と結婚する女性を田中麗奈が演じていたけど、何考えているか分からないキャラを上手く演じていたと思う。セリフの量も多かったのに、感情を乗せずにやり切ったのはスゴイと思った。

 

 

終盤のシーンで、次男と結婚した女性に、父親が「次男の家族に慣れるのなら、自分の家族になってくれてもいいじゃないか」みたいなコト言ってレイプしようとするのだが、それが彼の全てをあらわしているなと思った。自分が渇望するものは力尽くで手に入れる、その時相手の気持ちを慮らない(というか、考えてもいない)。結局拒絶されてしまうのだが、その後に残された父親は、「自分の行いを反省している」のか、それとも「手に入れたいものも手に入れられなくなった自分に老いを感じている」のか。。。