映画鑑賞録。

最近見た映画を忘れないために。

ヒメノア~ル。

2016年。

 

評価-7/10。

 

 

ヴァイオレンス度-☆☆☆☆

グロテスク度-☆☆☆

胸糞悪さ度-☆☆☆

イジメよくない度-☆☆☆☆☆

 

 

 

清掃会社に働く冴えない主人公は、同じく冴えない先輩と仲良くなる。先輩のコイバナを聞くうちに、先輩の片思いのヒロインと恋愛をするようになる。

序盤は、主人公ー先輩ーヒロインの三角関係で話が進む。

 

カフェで働くヒロインは、ストーカーに悩まされていることが分かるが、そのストーカーは主人公の高校時代の同級生だとわかる。

中盤から、主人公-ストーカー-ヒロインの三角関係が進み、ストーリーも動き出す。

 

三角関係といっても、主人公とヒロインは恋人同士でコミュニケーションが取れているが、先輩は女性にとって「恋人の横にいる人」であり、ストーカーは「不気味な存在」なだけである。

先輩もストーカーもヒロインに話しかけもせず、見ているだけで、一人でレンアイをしているだけだ。(一応、先輩はストーカーの相談相手になっているが。)

 

先輩は、「女神」を愛し、失恋して、迷走して、ちょっとキモイけど、笑える存在ではある。(終盤では、純粋性も明らかになるし。)

 

 

ストーカーの方は、高校時代に過酷なイジメを受けており、同じくイジメを受けていた男性を誘って、イジメ首謀者を殺してしまう。

 

以降、共謀者にされた男性は、この殺人事件をネタにゆすられることになる。

 

ストーカーは、ゆすりで得たお金で生活をしているようだが、ヒロインが主人公と恋愛関係を持ったことで、主人公を殺そうと持ち掛ける。

 

これ以上ゆすられて自分の人生を失いたくないと思った男性が、ストーカーを殺そうとするが、反撃されて殺されてしまう。

 

(男性には恋人がいて、恋人と一緒にストーカーを殺そうとしていた。反撃されて、恋人も襲われる。背後から襲われる女性のシーンと、主人公とヒロインの後背位のシーンが交互に映し出される演出もなかなか。ストーカーが女性を殺すときに、少なからず性的興奮を感じているとわかるし、冴えない主人公が潜在的に持っている男性としての凶暴さも映し出されている。)

 

この事件で、ストーカーはたがが外れたように、殺人を繰り返すようになる。といっても、自身の快楽のためというよりも、邪魔な存在だから、という理由で。

 

ここら辺から、ストーカーが高校時代に受けたイジメがどれほど彼の人格を痛めつけているかが描写されるようになる。

 

 

イジメによって、自尊心は奪われており、希望をなくしており、良心が殺されている。

 

なので、人を殺すことに躊躇がないし、恐れもない。

殺人がバレるのが嫌だから、探りを入れてきた相手を殺す、というよりは、説明するのが面倒だから、喚きだすのがうるさいから、話しかけられるから、殺している。

ストーカーの殺人現場にあるのは、圧倒的な虚無だ。

 

ヒロインを見ていた時は、まだ少しの未来もあったかもしれないけど、主人公と結ばれたことで未来も失った。

 

(といっても、最終的に強引にヒロインとSEXしようとする。その際に、嫌がるヒロインを殴って無抵抗な状態にしているから、彼女の人格を感じてレンアイしていたわけではないのだ。)

 

 

最後に、主人公を人質にして、車で警官から逃げるストーカーは事故って捕まるわけだが、その時の衝撃で高校時代の人格が現れる。まだイジメを受けてなかった時の人格だ。

 

そこから、主人公とストーカーが一緒にテレビゲームをしていた高校時代の一コマが流れて、映画は終わる。

 

最後のシーンで、まだ明るく幸せな未来が待つ普通の高校生だったストーカーと主人公の思い出が流れるので、哀愁を感じてしまう。

 

 

 

 

タイトルのヒメノアールとは、ヒメトカゲという猛禽類の餌にもなっている爬虫類を指しているそうだ。

 

ストーカーの被害者になった人たちにとっては、自分たちがヒメトカゲで、ストーカーが猛禽類というわけだが、一方でストーカーこそがヒメトカゲであり、彼を食っていたのがイジメ首謀者たちなわけだ。

 

 

序盤に、主人公とストーカーが話し合うシーンがあり、そこで主人公は「底辺でも幸せになれる」といい、ストーカーは「底辺に幸せはない」という。

ここでは、ストーカーがすでに殺人を犯していたということは明らかになっていないので、すごく根暗な人間だという印象を受けるだけだったが、ストーカーの過去と現在が明らかになるにつれて、彼に言う「底辺」が主人公の言う「底辺」とは全く異質のものを指していることが分かる。

 

さらに、どうあがいても幸せになれないと失望しているストーカーは、「イジメの記憶」によって、今なお殺され続けているのだ。

 

 

だからといって、ストーカーの気まぐれや必要によって起こる殺人に正当性があるわけではない。でも、だからこそ、ストーカーは可哀そうな存在だ。

 

人質にされた主人公が、ストーカーに対して、「昔のキミは、こんなんじゃなかった。優しかった」というが、事故の衝撃で退行したかのように、高校時代の彼に戻った。

 

主人公の言う「本来のキミ」に戻ったわけだが、それで彼は救われたのだろうか?

 

 

 

原作は、古田実の全六巻の漫画。映画よりも登場人物が多く、人間関係がもっと複雑そう。原作は未読。

 

 

映画に出てくる男性は、みんなイケメンとは言い難い人たちばかりで、役者のチョイスもいい。

 

ストーカー役をV6の森田剛さんがやっているが、うまく演技していた。

いわゆる「汚れ役」だけど、ジャニーズはこういう「汚れ役」を積極的に受け持った方が事務所としての評価も上がると思う。

(役者としての評価は、どれだけ多くの役をうまく演技できるかにかかっていると思うが。)

 

 

個人的に、「沙粧妙子 - 最後の事件 -」での香取慎吾さんも高評価です。